越坂康史 映画監督 『ミッシング77』『テルマエ・エイリアン』
堀井 彩 映画監督 『異形ノ恋』『窓辺のほんきーとんく』
わたなべりんたろう ライター、映画監督 『3.11日常』
寺内康太郎 映画監督『デメキング』『エレナー電機工業』
大畑 創 映画監督 『へんげ』『大拳銃』


これは『メランコリア』や『ダークナイト・ライジング』に匹敵する作品。蟻は社会性昆虫と呼ばれており、集団の中に階層があるという。ここに出てくる主人公たちも、自身のダークサイドにつけこまれ、いつの間にやらその階層に取り込まれている。現実社会においてもそれはよくあることで、人はその集団の中で自分の階層に応じた役割を果たすことに力を尽くす。この作品は、一見ただのスリラーのような体裁をとりながらも「会社」の非常識な仕事とルールに取り憑かれた人たちの悲劇を描いている。「会社」が何を表すのかは人それぞれでいいだろう。だが、明らかに私たちはそういう社会に生きているのである。

-越坂康史 映画監督 『ミッシング77』『テルマエ・エイリアン』


色があるのにないような、音があるのにないような、例えるならF・W・ムルナウやフリッツ・ラングが監督した戦前のモノクローム映画に似た作品だった。現代の映画にはない削ぎ落とされた感覚……画面に映し出される怖ろしく冷たい血に嫉妬を覚えた。 日本にも暴力を題材とした作品は多々あるが、そのどれもがアクション映画に過ぎない。これは日本で唯一の“フィルム・ノワール”と呼べる作品かもしれない。

-堀井 彩 映画監督 『異形ノ恋』『窓辺のほんきーとんく』


雌伏の時を経て、一部では伝説化していた野火監督の待望の新作が遂に観ることができる。変わらず非情な世界を描ききる野火監督の手腕に注目してほしい

-わたなべりんたろう ライター、映画監督 『3.11日常』


野火さんの書く物語は、観る人を、若き日の自分自身に戻してしまう。
それはノスタルジックな気持ちになるとか、そういった野暮な意味ではなくて、まるで子供の頃の自分が、今の自分に憑依するかの如く、全てを乗っ取られるような瞬間。
例えるなら、子供の頃『グリム童話』に触れた時のように、ワクワクとして、ドキドキとして、ドロドロとしていて、そして残酷な程、人間らしい大人と出逢う。そして、『世の常』を知る…。
野火さんの描く世界観はいつもそうだ。まだ、人間らしいとはいえない子供の頃、誰もが感じていた『この世界』への恐怖心と、尊さに再会させてくれる。
そんな野火さんだけど、本当は『性』という字がよく似合う。
しかし、うまく隠している。
女性をという動物を描かせたら、怖いほど冷静に分析する。
『女心』ではなく、『女』という生き物が、野火ワールドには存在する。

-寺内康太郎 映画監督『デメキング』『エレナー電機工業』


優れた映画は現実の先をゆく。もしかしたら、『蟻が空を飛ぶ日』における殺し屋集団のような組織の存在が、数年後に明るみに出るのかもしれない。

-大畑 創 映画監督 『へんげ』『大拳銃』